8話 混沌からの来訪者(前編)

依頼者:ジナイーダ
報酬:60000c
作戦領域:アイザールダム

送信者:アライアンス本部
件名:動向調査
レイヴン、可及的かつ、極秘の依頼です。
我々の主戦力とも言える戦術部隊。その司令官を務めるレイヴン・・・「エヴァンジェの謀反」という疑惑が流れています。
噂の内容は不確かな部分も多く、決定的に情報も不足しているため、どのようなものなのか現在調査中ですが、ここ数時間、彼の不信な行動の目撃例が数多く確認されています。もしかすると、噂と何か関係があるのかもしれません。そこでレイヴンにエヴァンジェの監視を依頼します。
エヴァンジェには、ある武装勢力の拠点を制圧してもらうよう依頼を廻し、レイヴンには彼の監視役を兼ねた僚機として同行してもらいます。エヴァンジェ側の依頼の内容は、私たちアライアンスに敵対する独立武装勢力の拠点、それに属するレイヴンの排除です。排除対象のレイヴンは「リム・ファイアー」という男、エヴァンジェが、もし密かに謀反を企てようとしているのなら併せてこれも排除してください。提示した報酬とは別に、リム・ファイアー、エヴァンジェの賞金と、それに対する特別報酬を用意させていただきます。

「エヴァンジェの排除ね・・・。これで世界の安定を謳うって言うんだからお笑いだよな?」
「あの男に対するものなんてどうでもいいさ・・・俺はただ、出された依頼をこなすだけ。誰が生きようが、死のうが、俺には関係ない話だ。それよりもデュラム、今回の作戦のために頼んでおいたレイヴンの情報・・・持ってこれたか?」
「大将も人が悪いな。持ってくるじゃなくて、持ってこいでしょ?バッチリ持ってきましたよ」
 コクピットのモニターから今回のターゲットとなるレイヴン・エヴァンジェとリム・ファイアーの詳細なデータが表示された。
「エヴァンジェ・・・、アライアンス戦術部隊に所属し、同部隊の司令官を務めるレイヴンだ。半年前のナービス戦役の時、アークに・・・しかもちょうど最後期に入ったらしい。レイヴンとしての腕は当初から注目はされてはいたんだが、アークの掟・・・企業や特定勢力との直接契約の厳禁、これを破ってミラージュ社に駆け込んだって言うわけだ。しかも、ヤツがアークを去る直前、アリーナの最後の試合で同期のレイヴンに2度敗北してからアークを追放されたていう話。その後は、知っての通りだけど、奴の腕でもさることながら、功名心が高いつうか、欲深いつうのか、とにかく自意識過剰なヤツってことだ」
「同期のレイヴンに負けて、おめおめと企業に泣き寝入りか。まあ、リストの賞金を見る限り「弱い」とはいい難いがな・・・」
「次に、リム・ファイアー。こいつもエヴァンジェ同様にナービス戦役に活躍したレイヴン。もっとも、レイヴンとして動いたのはナービス戦役のかなり終盤あたりだがな・・・」
「終盤、という事はエヴァンジェより後輩か・・・」
「そうなんだが、実はアークに、ヤツのAC“バレットライフ”は2機存在する」
「2機も?なんでだ?」
「もう1機は、ピン・ファイアーというヤツの親父が乗っていたACのことだ。親父の方は歴が長く、バーテックスの烏大老とついで2番手の古株レイヴンだった」
「・・・で引退に息子にあとを継がせて自分は隠居の身というわけか?」
「ちがう。親父は死んでいる」
「なに?」
「細かく調べたら面白いことが発覚してな・・・。実は親父の方は、任務中に戦死した。しかも、親父を倒したのはエヴァンジェと同期のレイヴンっていう話。そのあと、親父のカタキをとるため、アリーナでそのレイヴンと戦い、結果は敗北。皮肉なことに、ヤツがレイヴンを狩りまくる切っ掛けとなったのもこれが原因かもな?」
「親のカタキで、レイヴンを狩っている・・・か。なんとも、面白みに欠ける話だな」
 一通りの情報の整理がつくとACを稼動させ、ガレージのハッチを開くためコクピットから操作を行う。すると扉が開くと同時に、目の前に紫色のACが佇んでいた。
「おいおい、玄関開けて1秒後に敵かよ?冗談きついな・・・」
「お前がゼクセンだな?噂には聞いている」
「そりゃ、どうも。何処の誰に依頼されて来たかは知らんが、せめて家を出てから相手してくれないか?ジナイーダ?」
 ジナイーダ・・・、ゼクセン同様に独立系のレイヴンとして活動し、以前から頭角を現してきた女レイヴン。その戦闘能力は30リストでもかなりの上位。
「悪いが、今、お前の受けた依頼は既に無効となった」
「無効?何の話だ・・・」
「単刀直入で言おう、エヴァンジェはアライアンスからバーテックスに転向した。それだけではない、エヴァンジェの下にいた部下達も同じくバーテックスに合流、主なメンバーは・・・」
「・・・それ以上言うな、お前の所為で稼ぎがなくなった」
「では代わりに私の依頼を受けてくれるか?」
 この一言にゼクセン一瞬驚きはするも、表情には出さず冷静な顔でジナイーダの依頼を聞く。
「ここからさほど遠くはない山奥・・・アイザールダムにアライアンスの部隊が駐留している。私が受けた依頼は、アライアンスに対立するある武装勢力からだ。内容はACの撃破、目標は本部直属のレイヴン“ジノーヴィー”、搭乗機は・・・」
「ACデュアルフェイズ。アーク時代、最強を誇っていたレイヴンだった。俺が調べた情報じゃ、さっき言ったエヴァンジェとリム・ファイアーの親父を負かしたヤツと唯一引き分けに持っていったレイヴンだ」
「・・・・・・。なるほど、お前のリサーチャーはかなりの腕を持っているようだ。その通り、あの男はかつてレイヴンズアークで最強を誇っていた・・・だが、その男の言うとおり、たった一人のレイヴンによって最強の座を追われた」
「まぁ、何はともあれ、アーク時代に最強と呼ばれたレイヴン。俺にとってはそういうヤツと戦えること自体、嬉しい限りだが・・・」

数十分後、サークシティ郊外北西部山岳地帯・アイザールダム

「ジノーヴィー隊長、例の噂・・・本当でしょうか?あのエヴァンジェが我々を裏切ったという噂・・・」
 「エヴァンジェのバーテックス合流」の報は、瞬く間にアライアンスの殆どの部隊に知れ渡っていた。当然、本部の直属レイヴン・ジノーヴィーの耳にも入っていた。彼自身、レイヴンズアーク時代でエヴァンジェの評価はある程度知っていたが、旧企業からアライアンス結成までのこの半年間、ジノーヴィーは、日に日に増していく
エヴァンジェの「何か」に危険を感じていたが、「本部」と「戦術部隊」との間にある確執からか、細かく詮索することはできなかった。
「本部の報告では、サイプレス副隊長も一緒にバーテックスに参画したとの・・・」
「心配するな、私はお前達を見捨てて消えたりはせんよ。いざとなれば、私がお前達を・・・」
「隊長!」
 部下の1人がジノーヴィーに駆け寄った。
「どうした!?」
「敵襲です。ACの単独侵攻・・・もうすぐこちらに!」
「本当にAC1機だけなのか?所属は、バーテックスのレイヴンが?」
「第6守備班、応答ありません。熱原更に加速・・・きます!」

同時刻、アイザールダム・山間水路

「もうすぐ、目標地点に着くわ。ポイントに入ったら機体を降ろすから、あとは打ち合わせ通りに展開して」
「ファシネイター、了解した」
「スキールニル了解」
「レイヴン、目標地点に着いた。成功を祈る」
 輸送ヘリ・クランウェルからACを固定していた拘束ギアが外されると、スキールニルとファシネイターの2機のACは自由落下を始めた。両機のシステムが起動したと同時にブースターを全開にして、高速で渓谷の谷間を飛び抜ける。
「あんたにしては珍しいな。俺みたいな“ただのレイヴン”に依頼なんか出すなんてな?」
「“ただのレイヴン”か・・・、それだけの腕と懸賞金で自分を凡庸扱いとは・・・」
「凡庸でいいのさ、俺は高いところへ行くわけじゃないし、ただ強い奴が居れば勝負を挑む喧嘩好きなだけのレイヴンであれば、俺は満足なんだからな」
「変わった男だな?お前は・・・。昔、お前に良く似た男を知っている」
「ふーん。まぁ、俺には関係ないが、どんな奴かねぇ?」

アイザールダム・堤防下

「こんな雑魚相手では話にならんな。余計に面倒が掛かった」
「隊長、あの白いAC・・・バーテックスでは見たことがありません・・・あの機体は・・・」
「バーテックスか・・・、この俺に煮え湯を飲ませたあの男が居る連中だったな」
「ここは下がれ、私が何とかする」
「隊長!」
「誰一人、逃がしはしないが、お前を放っておくと面倒になる。俺は面倒が嫌いなんだ、すぐに殺してやる!」

「あの白いAC・・・」
「知っているのか?」
「以前、ジャックと一緒に依頼を受けたときにジャックの相手をしたACだ。奴の名はスティンガー、ウェンズデイ機関とかいう変な組織に雇われている用心棒だそうだ。それより、どうするつもりだ?まさか高みの見物か?」
「いや、動く・・・が、私は暫く様子を見る」
「じゃ、決まりだな。ジノーヴィーにスティンガー、2人の賞金を横取りされるのは杓だから、先に行かせてもらう。レイヴンは金をもらってなんぼってね?」
「分かった。時間がたったら私も仕掛ける」

ダンッ!

「・・・!お前は!?」
「よう、久しぶりだな?スティンガー。地上の空気はどうだい?」
「お前のお陰で、折角の狩りも満足にいかん・・・、邪魔だ、死ね!」

 ブウォン・・・。刹那の瞬間、ヴィクセンのレーザーライフルが火を吹くのよりも早くスキールニルのムーンライトが、ヴィクセンの右腕を斬り落としていた。
「必殺剣、虚空落し・・・なんてな」
「貴様・・・」
 スキールニルは右腕のマンシンガン・PIXIE2を、ヴィクセンのコアパーツにロックオンさせ、いつでも撃てるように操縦桿のスイッチに指を配置、ゼクセンとスティンガーは数秒間、一切動こうとしなかった。堤防の最上階から見下ろしていたジナイーダが、ゼクセンたちのいる最下層まで降りてきた。
「意外に勝負が早かったな?」
「その声は・・・アグラーヤ?・・・アグラーヤか!?」
「久しぶりだな、ジノーヴィー。だが今は“クレストの赤い星・アグラーヤ”ではない。ジナイーダ・・・お前と同じレイヴンだ。私はお前に近づくため、レイヴンとして強くなった・・・。お前も変わらないな?ジノーヴィー・・・」
「・・・感動の再会は悪いんだが、俺のこと、忘れないでもらえない?」
「・・・貴様ら、この俺を馬鹿にしおって・・・」
 ゼクセンのロックオンが一瞬外れたのを見計らって、スティンガーは最大速度で後退した。するとスティンガーは上空に向けて信号弾を発射し、山の影から巨大兵器が出現した。
「あれは何だ?アライアンスの旧世代兵器か?」
「ヤツらのあんなオモチャと一緒にするな。こいつは“ファンタズマ”、俺の雇い主が用意した最強兵器だ。貴様らごときがこの俺に勝てるわけがない・・・このファンタズマで貴様らを・・・」
 ・・・ドーーーォン・・・・・・。全身が見えた瞬間、巨大兵器ファンタズマが突如爆発、スティンガーが驚愕した。
「馬鹿な・・・、ファンタズマが・・・」
「・・・スミカの情報どおり、スティンガーとファンタズマが出て来たな・・・」
「ジュン、堤防上層部にACが1機、該当データ・・・レイヴンズアーク登録機体・・・、『カオスマトリクス』!?」

(後編に続く)

EXIT