7話 確執

依頼者:不明
報酬:90000c
作戦領域:ファザート前線基地


 ディルガン流通管理局がネオ・フライトナーズに占拠されてから数十分とたった頃、アライアンスは着々と対バーテックスの戦力を集結しつつある。

――――ファザート前線基地。
 元々は旧企業の訓練演習場として使われていた施設、半年前の特攻兵器の襲来とバーテックスの台頭により、ミラージュ派を中心としたアライアンスの部隊によって、対バーテックス前線基地として変貌を遂げる。しかし、この基地にアライアンスの部隊は存在しない・・・、というより、未だ戦力を集めている最中なのでここにはまだ到達していないと言った方が正しい。

「1人で来いって言われたから来たわよ!」
 青い色のACに搭乗する少女は、ハッチを開放してコクピットから姿を現した。ライトブラウンの長髪が風になびき、旧企業の制服を普段着同然で着こなす。元制服の左胸には企業の紋章が描かれ、「KISARAGI」という文字が見える。彼女の名は「アリス・アカシ」、アライアンスに併合された旧企業キサラギ社の元ACテストパイロット。そんな彼女が単身、旧企業連合統括機構“アライアンス”勢力下のファザート前線基地に赴いた理由・・・。
「・・・良く来たな、小娘にしてはなかなか勇気のある奴と評価しておこう」
「小娘と何よ、小娘とは!企業の甘い蜜欲しさに喜んでアークを裏切り、後から出来たアライアンスの子飼いになった哀れな戦術部隊司令官様?」
 アリスの言う「司令官様」とは、アライアンスの下部実動部隊“アライアンス戦術部隊”の司令官にして、企業との癒着を持った罪でコンコード社(レイヴンズアーク)を追放されたレイヴン・エヴァンジェ。
 アリスは、エヴァンジェからの1通のメールでこの基地に呼び出された。アリスにしてみれば、エヴァンジェは30リストの“五強”の1柱として数えられる実力者。そこいら辺にいる中堅レイヴンとは格が違うことは自分でもわかっていた。だが、アリスにとって問題なのは「エヴァンジェの実力」ではなく、「自分を呼び出した理由」が気になってここへ来たのである。が、明確な理由も聞けず、「直接本人に聞く」という選択を選んだ。
「・・・で、あたしを呼んだ理由を聞かせて欲しいんだけど?」
「お前は以前、セントラルオブアースでジャックと戦ったそうだな?」
「たしかに戦ったといえば戦ったわね・・・。でも、結局ボロ負けだったけど?」
「まぁ所詮、レイヴンでもないただの小娘にジャックを倒すことなど無理な話だ・・・。それに・・・」
 全身に悪寒が走った同時にすぐにACを起動させた。
「お前からジャックの事を聞き出そうと思ったが、期待はずれだったようだな」
 インパクトファイアの戦闘システムを起動させた直後、エヴァンジェのACオラクルの右腕に装備されていたリニアライフルが火を吹く。が、初弾はわざと当てず、アリスはエヴァンジェから距離を置いた。
「お前にもう用はない、消えてもらおう!」
「やっぱりこういうオチだったわけね。あたしを騙した代償はきっちり払ってもうわよ!」
「ただの小娘が調子づくな、ドミナントの私に勝てると思っているのか?大馬鹿者が!」
「ドミナント?・・・先天的戦闘好適者、遺伝的に戦いに抜群のセンスを持った人間のこと?」
「そうだ、仮説の中でしかなかった存在がこうしてお前の前に、姿を現したのだ。選ばれた私の・・・ドミナントである私の力を間近で見ながら死んでいけることを幸福と思え!」
「何が幸福よ!冗談じゃないわ、あんたの変な話で死ぬなんて御免だわね!」
 以前のアリスであったなら、ここでエヴァンジェに確実に殺されていたであろう。だが、アリスは、セントラルオブアースでの一件以来、自分なりに修行を積んだため、エヴァンジェと五分の勝負が出来る程、成長した。・・・しかし、所詮は五分の実力だけで、エヴァンジェを超える程成長はしていない。
 だが、アリスはエヴァンジェを追い詰める。
「ただの小娘に何故私が勝つことができん」
「(流通管理局でバーテックスの“G.ファウスト”とかいうおじいさんが言ってた通り、日頃の練習が大事だって・・・。でも、自分でもビックリかも・・・?)」

 数分戦闘が続き、両者に疲れが見え始めたころ、それまで優勢だったアリスが窮地追い込まれた。原因は装備している射撃兵装の弾切れ。エヴァンジェはこれを待っていたかのようにコアの実弾EOを発動させ、左肩のリニアガンCR−WB91LGLを打ち出す。まるで、プロボクサーが激しいラッシュ攻撃を仕掛けたかの如く。
「あいた!・・・流石にリニアは揺れるわ」
 オラクルの激しいリニアガンの砲撃を喰らいながらも、冷静に反撃の機会を待つ。そして、それは訪れた。
「もらい!えーーーいっ!」
 アリスはブースターを、フルスロットルにまで加速させ、移動しながらハンガーにしまっていたレーザーブレードCR−WL79LB2を実盾SUITENから装備を変更し、持っていたリニアライフルごと右腕部を切り落とした。

――――ドシャァァーッ!
 インパクトファイアの斬撃に後ろへと下がるエヴァンジェ。
「・・・馬鹿な、こんな筈では・・・。この小娘、まさか・・・」

 急旋回し、オラクルは前線基地を離脱。アリスは、滝のように流れる汗を拭い去りながら地平線の彼方へと消えていくオラクルを見つめながら暫く沈黙。
「・・・勝った、エヴァンジェに勝った。けど疲れた・・・」

 かなり消耗したアリスはそのまま機体の中で眠ってしまった。・・・数分後に心配できたクレイン達に回収されるまでは・・・

 残り14時間。アライアンスの対バーテックス全面侵攻作戦が開始され、戦局は、遂に中間点へと達しようとした。


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