第6話 電撃作戦
依頼者:バーテックス
報酬:169000c
作戦領域:ディルガン流通管理局
アライアンスの対バーテックス全面侵攻に呼応するかのようにバーテックスも動き出す。
送信元:バーテックス
件名:作戦参加
アライアンス管理下にあるディルガン流通管理局の奪取を行いたい。そこでレイヴンにはこの作戦への参加を依頼する。この作戦は、我々の今後を決めるのに重要なものであるため、心して欲しい。アライアンスが本格的に動き出した今、戦力規模で劣る我々が勝利するには、奴らに荷担するレイヴンの排除と、戦略的に重要な拠点を奪うこと以外に他無いのだ。作戦目標自体はこの施設の奪取だが、敵の虚をつくため、AC2機による電撃作戦を展開する。そこでレイヴンには、施設を守る敵ACの撃破を任せたい。撃破目標は、アライアンス戦術部隊所属レイヴン“エグザイル”、ACは“アフターペイン”。アーク時代、優秀なレイヴンとして名の知れた男だ、実力は高い。この男を撃破するのに並みのレイヴンでは歯が立たず、主戦力となるACを相対させ敗北してしまっては大きな打撃を被るのは問題だ。そこで最近頭角を現した君ならば撃破も可能だと判断したわけだ。撃破後の懸賞金は勿論、君の物で構わない。我々の勝利に大きく貢献してくれることを期待する。
送信元:アライアンス
件名:防衛作戦
ディルガン流通管理局の防衛を依頼します。現在、バーテックスの大部隊が本施設に侵攻中との情報を受け、迎撃を整えていますが、対AC戦力が不十分で、戦術部隊の応援も間に合うか不安の状態です。レイヴンには、戦術部隊が到着するまでの時間稼ぎとしてバーテックスの部隊をできる限り撃破してください。戦術部隊到着後は我々に任せて頂く形になります。報酬は敵の撃破数に応じて支払う歩合制をとります。そのつもりでいてください。
送信元:匿名
件名:依頼だ
久しぶりだな、レイヴンをやっていると聞いて、腕試しにお前へひとつ依頼を回す。アライアンス管理下にある「ディルガン流通管理局」という施設の強奪を計画しているが、バーテックスが主力部隊を送り込んでいる。そこでバーテックスが施設を占拠した頃合に乗じて施設の横取りを実行する。お前にはバーテックスの部隊を全滅させてもらう。頼むぞ。
「大将への依頼が3件。1つはバーテックス、もう1つはアライアンス・・・」
「そして最後の1つは差出人不明。いずれもディルガン流通管理局を舞台した作戦のようだな?」
「(最後のこの“匿名”のメール。俺を知っている奴らしいが、誰だ?ジャックにエヴァンジェじゃない・・・そもそも、あの二大組織からではないのは間違いない。政府にこれをできる力はまだ無いとして、小さい武装勢力かなんかの類か・・・)」
依頼主の正体も判らず、記憶を検索する。
「まさかな・・・」
「どうした大将?」
「いや、なんでもない。それより・・・」
「どこの依頼を受けるんだ?この3つの中で・・・」
「バーテックスだな。アライアンスは報酬が歩合で、利益ならない。匿名とか名乗っている連中は、報酬の提示がない。・・・というより、もしかしたらバーテックスの賞金首を撃破した懸賞金ってところだろう」
3つの依頼からバーテックスを選んだゼクセンは、格納庫へと向った。
「ジュンさん、言われたとおり、機体の構成を変えましたけど・・・、どうしたんです?OBタイプのコアから、EOタイプのコアに変更っていうのは?」
ガレージの整備員が、不思議そうにゼクセンを見つめながら新しくなったスキールニルのことを問いかけた。
以前まではOBコアを搭載した機体を駆り、高機動戦闘を得意とした彼だったが、ここへ来て大きく機体の構成を変えた。
「最初はラカンを装備、アンバークラウンではウル・・・。どっちも軽いOBタイプのコアでしたけど、今回のミッションではE2を装備。ホントにどうしたんですか?」
キサラギ製コア「RAKAN」からクレストの「CR−C840/UL」へ、いずれも軽量で積載量も申し分なく、本人も満足の行く性能を有していたパーツから、同じクレスト製のEOコア「CR-C98E2」へ変更。他にも各所にj変更が見られた。
「リニアライフルから千発装備のマシンガン、両肩のデュアルミサイルは、それぞれ9発同時発射のマイクロミサイルに中型ロケット。・・・でも、頭と腕、それに左腕のムーンライトは変えないんですね?」
整備員の話では、改良したスキールニルの変更パーツは次の通りとなる。コア「OBタイプコアCR−C840/UL(クレスト社)」→「EOタイプコアCR-C98E2(クレスト社)」、右腕武装「リニアライフルCR-WR92RL(クレスト社)」→「1000発装弾型マシンガンWR04M-PIXIE2(ミラージュ社)」、両肩武装は「デュアルミサイルCR-WBW94M2」→右肩「中型ロケットCR-WB82RP3(クレスト社)」と左肩「KARURA(キサラギ社)」、脚部「中量2脚LH05-COUGAR(ミラージュ社)」→「CR-LH89F」といった具合に、結果、大半をクレスト製が占めることになった。
「さて、稼ぎに出かけますか・・・」
30分後、アバスク平原南西部ディルガン流通管理局。
「アライアンスの部隊は・・・MTが中に数機とACが・・・、2機?1つは情報どおり、エグザイルのアフターペインだ。もう1つは・・・、本部のAC、テン・コマンドメンツ?・・・ということは、あの“狂信者サイプレス”か・・・。両方フロートタイプだ、足が速いのも厄介すぎる。どうする、ライウン?」
「問題ではない。油断さえしなければ、奴らなど恐れることはない」
敵の戦力を冷静に分析するゼクセンは僚機として同行していたライウンと強襲作戦の打ち合わせを行っていた。すると、“サイプレス”という援軍を予見したかのように、バーテックスからもう1人・・・。
「私の勘はあったようだな。君たちに付いてきて正解だったということだ」
スキールニル、ストラックサンダ―ともう1機そこに居たのは、地味に古いAC「パンツァーメサイア」。パイロットの「G.ファウスト」の長年の経験と冴えた勘は見事に的中し、険しい顔を現しながら流通管理局の方を再度見つめた。
「・・・では、再度、作戦の確認を行う。ライウンが先ず、肩のキャノンで2人の注意を逸らす。次に、ゼクセンは予定通りエグザイルと戦ってもらうとして、サイプレスは・・・」
「どうした、ファウスト?」
「・・・いや、手順を変えよう。私とゼクセンであの2人の相手をし、ライウンはその隙に、流通管理局施設内部にそのまま乗り込む。ライウンではあの2人の足の速さには追いつかん、ここは少しでもウェイトの軽くするのが得策だ」
10分後―――――
「・・・っく!足の速さでは、俺達の方が上の筈、なのに何故追いつけん!」
「隠居をしていたとはいえ、日頃の訓練は一度たりとも欠かしたことはない。才能があっても、それを活かせんようでは、宝の持ち腐れというものだ」
「バーテックスが・・・調子に乗るな!」
旧式パーツで構成されたパンツァーメサイアが、機動力で勝るテン・コマンドメンツと互角の勝負、恐らくここでしか見れない光景であろう。・・・だが、そんな“死合”を見れるほど余裕などない。一方、エグザイルとゼクセンの戦いは、戦闘開始から数分が経過している。が、どちらも「激しい消耗」は見られない。
「・・・流石はフロートだ、FCSが追いつかない。サイトの広い奴を組み込んでおけば幾らかマシだったな?」
フロートの速さに翻弄され、的確に撃ったつもりのミサイルも当たらない。・・・それもそのはず、エグザイルのアフターペインには、今となっては生産されていない幻のエクステンションパーツ「MEST-MX/CROW」を装備。このパーツは所謂“ステルス機能”が備わっているので、相手のロックオンは完全に遮断。だが、ゼクセンもそれに気付き、ミサイルから右肩のロケットに切り替えた。
「ロックが出来ないんなら・・・」
ドン!
「なんだ?クロウが作動しない・・・。あのレイヴン、頭の回転が速い」
アフターペインのコクピットに「EXブレイク」のアラームが鳴り響く。ゼクセンは、上手い具合でアフターペインに接近し、零距離でロケットをステルスに命中させて機能を封じた。だが、これだけに止まらず、ゼクセンは誘導機能が回復したFCSを右腕のマシンガンに素早く切り替えるだけでなく、出撃前に交換したコアのEOシステムを発動させ、右腕マシンガンと速射型EOのラッシュでアフターペインのAPを徐々に削る。
「こちらもEOを展開・・・」
しかし、実弾型EOとマシンガンのコンビネーションラッシュをもろに受け、機体に掛かった熱でラジエータをフル稼働させたためか、アフターペインはENチャージという予期せぬ事態に陥ってしまう。だが、そんなことには容赦なしにゼクセンのコンビネーションラッシュは続き、アフターペインの武装はコアのEOを除き全て破壊、同時に弾切れとなったEOを格納し、一呼吸置く。
「・・・聞こえるかレイヴン」
「?」
「私に抗う手段はもう残されていない。私がせめてレイヴンとしてのツバサを残すため、一思いにブレードで楽にさせて欲しい」
そうエグザイルは遺言めいたことを呟き、ゼクセンは何も言わずに“実行”した。
―――――レイヴン・エグザイル、30リスト最初の戦死者となった。
「エグザイル!」
爆散したアフターペインの残骸を見て戦意が喪失したサイプレス。
「お前もレイヴンなら、戦場で死ねる覚悟はできているはず」
「・・・ちら、・・・ト・・・ックサン・・・。ファ・・・ス・・・・・・答しろ」
「どうした、ライウン、何が起きた?ライウン!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・奴ら・・・・・・もう地球に・・・・・・」
ザーザーザーザー・・・・・・・
「ストラックサンダー・・・信号消失。リストのレイヴンもこれで2人目・・・」
オペレータのレイラがエグザイルの戦死を確認した直後、ライウンの戦死も・・・確認した」
「奴らはとは一体?」
「こちらテン・コマンドメンツ、作戦は失敗した帰還する」
急加速で、サイプレスは流通管理局から北東の方角へ離脱。サイプレスの撤退を除き、アライアンスの部隊の全滅をレイラは確認するとライウンを撃破した敵に警戒するよう、ゼクセンとファウストの2人に通達する。
「じいさん、気をつけろ。ライウンをいとも簡単に破った連中だ、並みの相手じゃない」
ガーーーーーー
流通管理局の正面ゲートが開放されるとともに、AC特有の鈍い機械音がコクピットのスピーカー越しから響いた。
「こちらアサルトドック、ACを2機確認」
「・・・こちらヘッドドック、攻撃を中止せよ」
「(ヘッドドック?どこかで聞き覚えあるような?)」
ACアサルトドックの後方から隊長格のACがゲートの奥から姿を現す。細身のフレームに銀色のカラーリング・・・、ゼクセンはこの機体をはっきりと憶えていた。
「レミル副隊長・・・」
「二等兵、久しぶりだな。そちらに手紙は届いたようだ」
「ゼクセン、知り合いか?」
「ファウスト、ここは交代しろ。奴らはアライアンスとは別の組織だ」
「二等兵、復隊する気はないか?」
「俺の尊敬するレオス・クライン隊長のいない・・・いや、“フライトナーズ”ではないフライトナーズに戻る気はありません」
「そうか、では11:57、我々“ネオ・フライトナーズ”は現時刻を以って、ディルガン流通管理局を占拠した」
レミルが“ネオ・フライトナーズ”と名乗ると同時に、依頼主のバーテックスから作戦の中止の命令を受ける。が・・・
「二等兵以外のACは排除しろ」
生き残ったファウストのACパンツァーメサイアに攻撃命令をだすレミル。
ドン!
「なに?」
「クレインの情報はあったみたいね?」
そこに現れたのは、以前セントラルオブアースでジャックに惨敗したアリスのACインパクトファイア。あれから色々と経験を積んだのか、以前には無かった武装が機体の各所に追加され、動きもよりAC乗りとして「らしく」なった。
「隊長、あのAC、速すぎます!ロックが出来ません!」
「落ち着け、相手はレイヴンではないのだぞ!」
「猟犬1、3、大破!脚部破損!」
インパクトファイアの運動性にネオフライトナーズの兵士達は翻弄され、アリスは敵の攻撃を全て回避し、尚且つACの脚部のみ破壊するという精密な攻撃を繰り返す。
「離脱するなら今よ!」
「ジュン、脱出経路が見つかったわ。出口付近に輸送ヘリを待機させてあるから急いで!」
「・・・だそうだ。じいさん、離脱するぞ!」
「猟犬11、21、戦闘不能・・・。隊長!」
「アリス、ゼクセン達は無事に離脱。私たちもそろそろ・・・」
「りょーかい」
「・・・くっ、逃がすか!」
離脱するインパクトファイアを、レミルのAC「シルバーウイング」が追撃する。が、次の瞬間。
シュバァァーン!
「誰だ!」
「(レーザーライフルの発砲音・・・カラサワ・・・まさか!?)」
アリスが、弾丸を放たれた方向を見る頃、そこには誰もいなかった。・・・が、アリスは正体が誰だったのか分かっていた。
その後、戦闘は約1時間半で終結、バーテックスのレイヴンが1人犠牲と作戦の失敗という苦い結果に終わり。バーテックス、アライアンスの戦いに、新たに「ネオ・フライトナーズ」という第3勢力が乱入し、混乱に拍車がかかった。後に、ディルガン流通管理局は彼らの根拠地として機能を変えたといわれている。
残り16時間―――――
熾烈な生存競争は、より過酷さを増しながら加速し始めた。