第2話 運び屋の少女

依頼者:セントラルオブアース監督局
報酬:50000
作戦領域:地球政府首都セントラルオブアース

 ジャック・Oのアライアンス襲撃予告まで残り22時間・・・、現時点での戦力差はアライアンス7:3バーテックスといった具合である。
 しかし、この数字は組織の規模から弾き出された総力戦を前提とされたものであり、純粋にレイヴンのみで見てみればアライアンス4:6バーテックスと、若干バーテックス側に優位勢が見られる。これは、バーテックスに属するレイヴン達が何れもアリーナの上位ランクに君臨していた強者ばかりで、レイヴンとして腕や質が高かった者達が大半を占めていたからである。だが、同時にバーテックスの実働主戦力もそのレイヴン達であるため、それらを排除すれば事実上バーテックスは崩壊してしまう。
 一方、アライアンスは、基がミラージュ、クレスト、キサラギといった新興三大企業が母体であるので旧企業の戦力に「プラスα=レイヴン」の図式になるため、多少レイヴンが減少した所で殆ど影響もない。が、最も戦局を分けるはACに他ならないため、個々の勢力に限らずACの操縦者であるレイヴンはかなりの戦力になる。そのため、レイヴンの存在は大きいといえる。

 エムロード社のキェトリス軍事研究所の任務からそれほど時間が経過していない早朝。先の任務を終えていたぜクセンは、自分のガレージに設けられた自室で仮眠をとっていた。だが、程なくすると、パートナーのレイラが仮眠中のゼクセンを起こしに来た。
「ジュン、起きて?」
 軽く起こそうとするレイラにゼクセンは起きる気配は無かった。
「・・・・・・眠い」
 この一言に、レイラはベッドの掛け布団を勢い良く引っ張った。すると、捲った掛け布団の下から寝巻き姿のゼクセンが見えた。
「ジュン・・・あなたもマメね?高だか数十分や数時間の仮眠でもパジャマなんか着て・・・」
「性分だから、これはしょうがないだろ?・・・で、何の用だ?」
 僅かな仮眠を妨げられ、寝相が悪かったゼクセンは不機嫌そうな顔でレイラの顔を見ながら起きた。
「依頼が来たわ」
 “依頼が来た”・・・そうゼクセンは聞くとベッドから出て、それまで着ていた寝巻きを脱ぎ始めACに乗るためのパイロットスーツに着替える。
「依頼主は?」
「地球政府よ」
「政府?この時勢・・・企業やバーテックスにアライアンスといった連中なら解るが、政府が俺に?」
 特攻兵器の襲来やアライアンスの台頭によって、殆どの力を奪われた地球政府。その政府から直接自分の下に依頼が飛んできたことにゼクセンは驚いた。
 程なく時間が経ち、 セントラルオブアースと呼ばれる地球政府の中枢がある首都にゼクセンは、赴いていた。嘗て統治者として強大な力を誇っていた地球政府は、特攻兵器の襲来やアライアンスを含む大小様々な勢力の台頭によって殆どの力の奪われて、現在は専ら災害から逃れた難民の救済に追い、台頭する個々の勢力を相手にできるほど力が残っていなかった。
「作戦内容は都市に運んでくる救援物資の護衛。目標は大型の輸送車両で約1週間分の衣食類を運んできているわ。あちらも護衛にACを1機連れて来ているみたいね」
「AC?レイヴンか?」
「いや、違うみたいだわ」
 そうレイラは言うと、事前に、デュラムが調べておいた護衛をしているACに関する情報をゼクセンに知らせた。
「運び屋ね・・・、なるほど、このご時世、こういう奴は俺達レイヴン同様に金になるからな・・・」
 ゼクセンは更に送られてきたレポート内容に興味深い記述も見かけた。
「元キサラギのテストパイロット・・・か、16・・・この年齢で・・・」
 更にレポートの内容を深く読んでゆく。
「・・・以前キサラギに在籍していた頃は、テストの相手は大半がレイヴンを占めており、中にはアークのトップランカーも何人かいたしいが、そのパイロットは、どんなに地形と装備の相性が悪くとも、常に最適な操作法を展開する・・・か。名前だけで顔は載って無い、デュラムの奴・・・こういうトコもちゃんと調べておけよな?」
 自分の雇っているリサーチャーのレポートにぶつぶつと文句を言うも、彼の本業がジャーナリストであるものの、他のレイヴンが雇っているリサーチャーよりも一級上の腕を持っていることを実感するゼクセン。
 暫く経ってからレイラが慌てた顔がモニター浮かび出た。
「ジュン、緊急事態よ。目標付近で爆発起きたわ!すぐに向って!」
「敵襲?こんな都市の奥部で?」
 コア背部を展開しオーバードブーストを起動させると、機体を最高速にまでスピードを上げて現場へ向った。
「・・・意外に粘るようだな・・・だが、次で・・・」
 事件現場では青いカラーに塗装された重量級ACが灰色の・・・恐らく輸送の護衛役だったと思われるACが、左腕、両肩武器が破損している状態で膝を屈した姿勢で沈黙していた。
「アリス・・・返事をして、アリス!」
 大型輸送車両の端末から女性がひたすら「アリス」と呼び続け、それは「呼ぶ」と言うよりかは「叫ぶ」に近かった。
 この光景をゼクセンはビルの屋上から見下ろしていた。
「半壊・・・いや、7か8割やられている危険な状態・・・それにあのAC、随分高い奴が来たな・・・」
 悠然と立っている重量級ACにゼクセンは憶えのある単語を口から出した・・・
「ジャック・・・」
「ええ、まさか、相手があのフォックスアイじゃねぇ・・・」
 「ジャック」に「フォックスアイ」・・・それは紛れも無くアライアンスに対抗している武装組織バーテックスのリーダー“ジャック・O”のことであり、“フォックスアイ”は彼の愛機。だが、ゼクセンは険しい顔をしていた。「なぜ、ジャックが此処にいるのか?」と・・・
「ジュン、時間がないわ。早く援護に向って」
「解った」
 返事と同時にゼクセンの搭乗機“スキールニル”は一歩足を前に出し、ビルから機体を降下させ着地と同時にフォックスアイの右腕に装備されていたレーザーライフル、通称「カラサワ」の銃身をスキールニルの左腕に装備されていたレーザーブレード「ムーンライト」の蒼いレーザーの刃が切り裂いた。
「そうか・・・火星上がりのレイヴンが、リストの最高額賞金首になったという噂・・・事実だったようだな」
「さーてな、俺はそんなに腕は達者じゃないぜ?ジャック・O・・・」
 スキールニルのリニアライフルの銃口がコクピット付近を捕らえた状態で、両者は暫く沈黙した。
「ジャック、お前達の相手はアライアンスだろう?ここは政府の中枢都市。いくらバーテックスでも、休戦協定に応じた政府を無視するんなら、俺が依頼主に代わって相手するが?」
 対アライアンス戦線に殆どの戦力を投入しているバーテックスにとって、政府とアライアンスの両方を相手するには戦力が足らず、ジャックは政府に休戦と不可侵の協定を襲撃予告以前に予め結んでいたのだが、その協定を無に帰してしまうジャックのこの行動に、ゼクセンはジャックに攻めた。
「それは我々にとって愚のほか無い・・・政府の厄介になる前にサークへ戻るとしよう。さらばだゼクセン」
 ジャック・Oは機体を急速回頭させ、その場を立ち去った。
「フォックスアイ、領域の離脱確認。依頼主から作戦の終了が出たわ、帰還して」
 作戦終了命令が依頼主から出され、その場を後にしようとした時、ゼクセンはアリスが乗っていたとされるACに一言告げる。
「黙り込んでいるそこのAC、害は払っておいた」
 ブースターを起動させ、レイラが待つ監督局の基地へ移動した。
「お疲れ様、デュラムからあのACに関する追加のレポートが届いたわ」
「顔写真の追加?・・・なるほど、そこそこは可愛い顔をしているな?」
「ジュン、あなた趣味変わった?」
「いや・・・」

ゼクセンへ・・・
これは、今回の任務で共闘するかどうかは知らんが、輸送車両の護衛をしているACのパイロットの情報を記述しておく。ACに乗っているパイロットは「アリス・アカシ」という、チョイト可愛げのある少女だ。この娘はもう一人組んでいる女と運び屋を営んでいて、彼女はそのリーダー役といったところだ。以前、キサラギ社で自社製ACのテストパイロットをしていたらしいのだが、あの特攻兵器の災害の後、キサラギはアライアンスに併合されて職を失ったわけだ・・・。そんで、金稼ぎに始めた救援物資専門の運び屋といったわけだが、これを狙う妙な連中から物資を護るための自衛手段として、以前彼女がキサラギで使っていた試作ACを持ち出して使っているって話だ。俺としては、なんとも不思議な娘だッて思えるぜ?まぁ、何にせよ、色々面白い娘だっていうことだ。ついでだから、彼女が乗っているACについても一緒に送っておく。機体名は「インパクトファイア」。実弾とエネルギー弾のバランスを上手く組んだACだ。この機体にはちょっと特殊なものがつんでいる、そいつは、強化人間が使用するACに見かける肩装備のキャノンの構え動作無くして移動しているときでも、飛んでいるときでも発射ができるオプショナルパーツって代物だ。まだ試作段階で、市場には出回っていないらしい。俺の私見だが、こいつが出回った日には、バーテックスのジャックやアライアンスのエヴァンジェなんか目じゃなくなると思うぜ。ま、何れにせよ、こいつが出回んなくって正解かもな?じゃ、また何かあったら知らせる。

デュラム・ジンガーより

アライアンス襲撃予告まで残り20時間・・・

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