1話 開戦の砲火

依頼者:エムロード社
報酬:34000
作戦領域:エムロード社所有軍事開発研究所「キェトリス」

 火星で起きたクーデターとほぼ同時期。新興中小企業連合「ナービス社」の自社領内で発見された「新資源」を巡ってミラージュ社は同領土へ軍事侵攻を開始、これに対しナービス陣営は提携を組んでいたクレストとキサラギの支援を受けてミラージュ社と対等に戦いを渡り合っていたが、突如として提携を組んでいた2社はナービスを裏切ったのである。持てる力の全てを出し切って挑むも、3社の強大な力には勝てず敗北。
 ナービスはその力・・・企業としての力を失った・・・
だが、キサラギ社が接収した元ナービスの旧世代兵器制御施設にて封印されていた旧世代兵器が活動を始め、施設から外界へ放たれる。放たれた旧世代兵器は忽ち雨のように地上のあらゆるものへ特攻し世界を破壊し尽くしていた。そして、世界は嘗て味わった「大破壊」を再び体験する。
 それから半年後・・・
半年前の特攻兵器の大災害から地球政府は、各所の災害から生き残った都市に流れた難民の救済と復興に多大な財・労力を割かれ、地球の治安は極めて不安定になり、民衆からの支持を大きく失った。
 それに代わり、特攻兵器の襲来によってミラージュ、クレスト、キサラギの3社は生き残りを懸けてそれぞれが連合することに合意し、設立した連合統治機構「アライアンス」・・・
 政府に代わって台頭したアライアンスに対し、その3社の親元であったジオマトリクス、エムロード、バレーナの3社は自分達の利益に危惧を感じ、アライアンスへの参加を拒絶。また、アライアンス打倒を掲げ、元レイヴンズアークの主宰ジャック・Oは、武装組織「バーテックス」を旗上げしてアライアンスに宣戦布告する。
 アライアンス襲撃を24時間後と予告、タイムリミットはすぐそこまで迫っていた・・・

 ジャックの襲撃予告から30分が経過した頃、地球の中枢都市セントラルオブアースから北東に離れた森林地帯シザースフォレストのエムロード社所有の研究施設「キェトリス軍事研究所」にて一人のレイヴンが任務に中っていた。
「レイヴン、シュミレーションはこれくらいで良いだろう、貴重なデータが取れた。協力に感謝する」
「ジュン、お疲れ様。迎えまではまだ時間があるけど、とりあえずこれくらいでいいでしょう」
「本名で呼ぶな、ちゃんとゼクセンで呼べ!」
 ゼクセンと呼ばれるレイヴンは、自分のことを本名で呼ぶ相棒の女性オペレーターに文句を言った。
「ゼクセンとか、レイヴンで呼ぶよりも『ジュン』っていう方が、可愛くて親しみやすいからそう呼んでるんだけどなぁ?」
「子供かお前は!任務の無い時ならそう呼んでも良いが、今は任務中だ!」
 二人の会話は外部からは聞こえておらず、ゼクセンの操るACとオペレーターの端末を繋ぐ回線だけしか聞こえない。だが、そんなモニター越しの会話とは別回線からACに繋いでいた依頼主側の端末から不意に聞こえた二人の会話の内容にキェトリスの研究員は笑った。
「あの二人・・・またやってるよ」
 そう言い放った研究員は、ゼクセンに報酬の精算を告げようとしたが、研究所に設置してあったレーダーに「敵」と認識された熱源が研究所に接近していることに気付き、ゼクセンにそれを伝え、追加任務として、所属不明の敵を迎撃するよう依頼を打電した。
 新たに出された依頼にゼクセンは不機嫌そうな顔をしながらACを起動させ、研究所の表玄関で敵を迎え撃って出た。すると、接近した熱源の正体はACであり、数を確認すべくレーダーを見ると1機のみ、一応、警告の為に右腕に装備していたリニアライフルを接近する敵ACにロックオンして停止を呼びかけたが、相手は回線を切っているのか無視しているのか解らず、向こうから返答は無かった。
 後のことを考え、ゼクセンはブースターを吹かし、敵ACに近づいた。
「右にガトリングと左に軽量型レーザーライフル。機動力を要とするため、フレームパーツは全部軽い物を使ってるな・・・。この機体・・・」
 ゼクセンのACのモニターに写っていた敵ACは機体が茶色に塗装されていることを確認し、そのエンブレムに見覚えがあった・・・というよりも知っていたと言った方が適切かもしれない。
「ジャックの言った通り、アレが噂の奴か?腕はどの位か、見せてもらうかのう」
「あの鷹のエンブレムは、エイミングホーク・・・烏大老?」
 お互い、ブースターを吹かした状態で接近し交差した瞬間に互いの持っていた武器を構える。ゼクセンは右腕のリニアライフル、烏大老は左腕のレーザーライフルをそれぞれ初弾を撃ち放つと同時に回避動作を行った。
 回避したゼクセンはそのままの勢いでエイミングホークと距離を置いた。しかし正確には「距離を置いた」のではなく「そこから逃げた」といったものに見えた。
キュイイイイイイン・・・
 エネルギーゲージを確認したゼクセンはコアの背面を展開し、コアに搭載されていたオーバードブーストを解放・作動させ、エイミングホークから更に距離を置こうとする。
「わしを見るなリ逃げるつもりならそうはさせん・・・」
 烏大老もゼクセンと同じオーバードブーストを搭載したOBコアタイプのACのため、ゼクセンと同じくオーバードブーストを作動させ、追撃を図った。
「ENゲージ、危険域です。すぐにOBを解除してください」
 エネルギー切れを表す警告音がコクピット中に響き渡るもゼクセンはそれを無視してオーバードブーストを解除せず、スピードを落とそうとはしなかった。
ピーーーーーーーーーー
 警告を無視したゼクセンのACは文字通り、エネルギーを使い果たして失速。
「エネルギーを切らした?小僧・・・何を考えて・・・」
 追撃を図っていた烏大老は失速したゼクセンを追い抜く・・・が、その瞬間。
ドン!
 エイミングホークに何か当たった揺れを装甲越しに感じた烏大老はふとレーダーを見るとミサイルを表す点が表示されているのに気付く。
「小僧・・・まさかそれが狙いでわざと?」
 初弾が命中した両肩のデュアルミサイルは宙に浮いたエイミングホークに更にもう一発ミサイルを放ったが、次弾は命中はしなかった。
「なるほど・・・オーバードブーストで逃げたと思わせて追撃させ、EN切れで失速した小僧を追い抜いたわしに背後を取らせて透かさずミサイルを撃った・・・というわけか?」
「悪いな・・・俺はじーさんみたいに、頭は良くないからな?多少は卑怯でも、若造には若造なりの頭で考えてみた方法だ」
 確かに相手を驚かせるには一番効果があったかもしれないが、数々の戦場を渡り合った烏大老には恐らく一回しか効かないであろうこの奇策に、烏大老は笑った。それは、誰もが考えれば効率が悪く、下手をすれば確実に失敗してしまうこの奇策に引っ掛かった自分の油断さに怒るよりも、それを実行に移したゼクセンの奇抜さに笑ったのである。
 面白い物を見たと烏大老は方向転換して一先ず本拠地のサークシティに帰っていった。一方のゼクセンは、過剰なまでにオーバードブーストを出し過ぎて未だにチャージング中であったが、ゼクセンを追って飛んできた輸送ヘリと合流する。
「ACスキールニル収容完了・・・ジュン、こういう無茶はアリーナかシュミレーションでやって頂戴よね?」
「仕方が無いだろ?レイラ。あーでもしないと、研究所に傷を付けて依頼主に文句を言われるのは俺なんだからな!」
「ハイハイ、そんなに怒鳴んないで頂戴よ」
 そう冗談めいたことをゼクセンのパートナーであるレイラは、ゼクセンにふざけた口調で言い放った。
 研究所に戻ったゼクセンは、依頼主であったエムロード社から対エイミングホーク戦の追加報酬を受け取り満足のいく表情ではなかった。なぜなら、貰った報酬が少ないという点で、ゼクセンは何時もの調子で文句を言おうとするも、現在の世界情勢を見れば今のこれが妥当であると開き直った。依頼を済ませたゼクセンは研究所を離れ、自分のガレージへと戻っていった。
 これから始るこの世で最も過酷な生存競争に勝ち残るために・・・
 そして、その時間は、残り22時間となっていた。

EXIT