13話 鴉を継ぐ者

依頼者:アライアンス戦術部隊
報酬:93000c
作戦領域:ディルガン流通管理局

依頼主:アライアンス戦術部隊
 ジャックの襲撃予告まであと4時間だが、ここへ来て我々の戦いに乱入したネオ・フライトナーズが根拠とする流通管理局、ここの奪還作戦への協力を依頼したい。
 目標は流通管理局に展開する敵部隊の撃破だが、政府軍が反アライアンス企業と各都市監督局の戦力を集結させ、本部と彼らへの同時制圧作戦を開始するという情報をキャッチした。この際、本部が滅びようとも我々はバーテックスの暴挙を止めてみせるつもりだが、問題は政府軍だ。展開する部隊はジオマトリクス社を中心とする連合部隊、レイヴンを何人か派遣しているようだが、戦力的に我々は圧倒的に不利である。そこで、レイヴンには政府軍よりも先に管理局へ赴き、敵軍を壊滅させて欲しい。時間が経てば政府軍がやってくる、そうなる前に任務を完遂しなければならないが、恐らく先行して来るに違いない。
 時間がない、一刻も争う事態だ。

 レイラの端末に届いた1通の依頼メール、すぐさまゼクセンを呼んだ。
「戦術部隊か・・・なるほど、副隊長相手に何処までやれるかと思ったが、意外とここへ来てジャックとの決戦を前に後顧の憂いを断ちたいつもりか」
「でも相手はエヴァンジェの戦術部隊よ、アリスの件もあるし、危険なんじゃ・・・」
 定期的に補給物資を回すよう契約を結び、最終決戦を前に補給物資を運んできたアリス達。そのマネージャー、クレインは戦術部隊の存在に危惧していた。
「あの隊長の部隊だが、連中は信用してもいいだろ。エヴァンジェは人格的には兎も角、曲がりなりにもあの戦術部隊をまとめる男だ。 問題は副隊長達と政府軍の両方を相手しなければならないことだ」
 ゼクセンは既に依頼受諾を決め、出撃の準備を待っていた。
 彼の愛機スキールニルは、更なる改造を施していた。
 「SR」・・・ソニックランナー、次世代AC用に開発された高速強襲用オプション。だが、クレスト派が密かにジオ社とバレーナの技術を盗用して開発された試作品、経緯は不明だが、アリスによってもたらされ、今回のミッションでゼクセンが用いることになる。このパーツは本来次世代ACの規格に順ずるもので、最高速度は平均マッハ3〜4、ACとしては破格の速度。それを現在のACの規格に合わせて作られ、ジナイーダのACファシネイターのコアと、その姉妹パーツにのみ特別なアタッチメントが存在し、ゼクセンはその「姉妹品」にブースターとともに取り寄せたのだ。
「ソニックランナー装着完了、レイヴン、何時でも出れるぞ!」
 整備士のリーダーがゼクセンを呼び出し、ゼクセンは出撃準備に備えた。
「出撃準備って、まさかここから直接行くつもり?」
「流通管理局まで最短で30分もかからない、依頼主が迅速かつ手短に終わらせろって事は、政府軍が管理局を接収するまで時間がない」
 クレインは今まで数多のレイヴンを見てきたが、ゼクセンほど大胆な行動を取るのは見たことが無かった。・・・が、考えてみれば、レイヴンの過去の経歴は多種多様。目の前で話しているゼクセンも元はフライトナーズの隊員だった。
「それに、この依頼は、俺自身の過去とケリをつけるためにも他の連中だけには先を越されたくない」
 ゼクセンはかつての上官であったレミルと戦うだけでなく、これから赴く戦場には他にも元戦友などもいるが、覚悟は最早決っていた。

「認証コード確認、レイヴン・ゼクセン。メインシステム、戦闘モードを起動します」

「(流通管理局か・・・クライン隊長、俺がレイヴンとして相応しいか否か、見極めてください・・・)」
「カウントダウン開始・・・5、4、3、2、1・・・ゼロ。ソニックランナー点火」
「ゼクセン、これより作戦を開始する」


ディルガン流通管理局

「こちらエクレール、表のACは掃討した。レジーナ、そっちは?」
「大方は片付いたわ。後はフライトナーズのレイヴンだけ・・・ん?」
「どうした、レジーナ?」
「上空から凄い速度でこっちに来ている・・・熱源はAC?そんなはずは・・・」
「レジーナ、どうしたの?一体何が?」
 政府軍所属の女性レイヴン、レジーナとエクレールの2人・・・かつてはコンコードでも逸材とされていたレイヴンだが、ジャック主導のアークへの参加を断り、中堅アリーナで活躍をすることになる。
「ラフェールとエキドナだな、俺はアライアンス戦術部隊のスキールニルだ。悪いが、道を開けてくれ」

 ズシャーと、大きな轟音と共に深紅のACスキールニルが姿を表すと、レジーナとエクレールは臨戦体制と整えた。
「アライアンスが何の用かは知らないけど、ここは政府軍の管理下よ、邪魔するなら容赦はしないわ!」
「もし、ここの奪還なら、一足遅れだったわね。悪いけどレイヴン、帰ってもらえない?」
 2人の警告にゼクセンは従うつもりなどない、それは2人も分かっていた。ゼクセンの噂は30リストのレイヴンなら誰でも知っているほどの実力者、2対1でも勝てる要素はないが、ここを引くわけには行かないのは彼女達もゼクセンも同じ。だが、そのとき・・・
「小娘、ここはこの小僧の顔に免じて通してやれ。こやつは自分との因縁に決着をつけようとしている」
 ゼクセンの背後から烏大老のACエイミングホークが闇夜に紛れて登場する。
「烏大老?」
「小僧、ジャックからの伝言だ。『用を済ませ次第、サークシティに来い。真実を明かす』とな」
「真実・・・だと?・・・分かった、爺さんには彼女達の面倒を頼みたい、報酬は副隊長の賞金」
 「ちょっと、勝手に」と、レジーナはゼクセンに喰い付こうとするが、エクレールがそれをなだめる。
「分かったわ、私たちの任務は施設の接収。レイヴンの撃破は受けてないし、中は貴方に任せるとします。でも、中の援護は一切しないから、そのつもりで」

数分後、管理局内部

「こちらバウンスドック、レッドフューリー及びライオンハート大破、ツェーンゲホーテとプロヴィデンスが侵入者と交戦中・・・いえ、撃破されました」
「表の政府側レイヴンの他にバーテックス側ACエイミングホークも確認、表部隊は全滅しました」
「・・・ストラング。二等兵、かなり腕を上げたか・・・。私のACは?」
「シルバーウイング、弾薬、エネルギー、各部の整備は完了済みです。何時でも出れます!」
「分かった、私が戻ってこなかった場合、交戦中の全部隊はすぐに戦闘を止め、政府軍に降伏せよと・・・」
「敵AC来ます!」

ズズーーン・・・

「レミル少佐、決着をつけに来ました。この部隊章を継ぐ者として、隊長の・・・レオス・クラインの信念を受け継ぐための戦いを始めましょう・・・」
「二等兵・・・火星で新兵であったあの頃とは顔つきが勇ましくなったな。分かった、ただし、戦うのは私一人だけだ、他の隊員には手を出すな」
「了解しました。」

「言っておくが、昔の部下だからといって、手加減はしない」
「こちらこそ」

戦闘開始

 烏大老とは反対側のゲートで一騎打ちを繰り広げる両者、マシンガン、ロケット、ミサイルに実弾EOといったバランスを重視したゼクセンに対しレミルは、ENスナイパーとブレードという軽量高機動型。それぞれのACもまたメーカーが異なる。現在ではアライアンスとして併合されたミラージュ、クレスト、キサラギの第3世代のパーツで構成されたスキールニル。ジオ社やエムロードなどの第2世代で構成されたシルバーウイング。だがこの2機は、世代のギャップをもろとせず、互角の勝負を繰り広げている。ゼクセンが退けば、レミルが追い,レミルが退けばゼクセンが追うといった一進一退の攻防が繰り返され、戦闘から5分を切った所で漸く勝敗は決した。

「・・・腕を上げたな二等兵・・・いや、レイヴン」
「はぁ、はぁ・・・副隊長も・・・」
「ナインブレイカーの称号は本物のようだ・・・彼女の・・・イツァム・ナーの言ったとおり・・・」
「彼女を知っているんですか?」
「昔、同期だったレイヴンだ・・・コンコードを去ってからは音さだなしだったが、これでお前の実力が分かった。お前はもう一人前・・・」

「シルバーウイング沈黙、中の生体反応はあるけそ、ジュン、どうするの?」
「このままにしておく、ほとほりがさめるまでな・・・」
「・・・待って、ジュン宛てに緊急通信・・・これはエヴァンジェ?」

「ここまで本当によく戦ってくれた、お前には感謝している。レイヴン、お前の実力を見込んで最後の依頼を回したい」
「依頼?」
「そうだ、既に烏大老からジャックの伝言は聞いているだろう。場所はサークシティ地下最奥部、名をインターネサイン、ジャックはこれについてをお前に明かしたいと私に連絡が入った。補給を済ませ次第、至急サークシティに向ってくれ。移動手段はこちらで用意する、では後ほど・・・」

「真実・・・だと?」

残り2時間・・・物語はついにクライマックスへ。


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