11話 狐火再び

依頼者:アライアンス・クレスト派
報酬:不明
作戦領域:サイナス飛行場

 いつからであろう、ひたすらに任務をこなし、注目を集めつつある存在。

 いつからであろう、無欲に等しく、それでいて人一倍に死と戦う存在。

 レイヴン・ゼクセンはダムでの一連の出来事をアリスたちやデュラムのレポートで見たり聞いたりしてその存在、“ナインボール”のことについてを考えていた。
「ナインボール、ファゴスのじいさんの話では、古の存在・・・」
 あるミッション前のブリーフィングで頭がいっぱいであった。
「あれは確か、レオス隊長がよく話してくれた旧世代の悪魔、若しくは神とか・・・。だが、そんなことはどうでもいい。気になるのは半世紀近く前の機体がどうして?あんなもの用意できる勢力は2つだけ・・・。旧ムラクモを母体とするジオ社・・・、同じく対を成していたクロームの生まれ変わりであるエムロード。どれも、大深度戦争時代にいた企業・・・だが、いずれも奴らは以前の研究データは持っていたが、実際にそれ制御できる力は無い。隊長曰く、“神に最も近い存在が人間如きに操れるほど簡単ではない”と・・・」
 疑問に思いつつも、時間が過ぎて行く。ミッション開始のアラームがなるとACを起動させ、モニターから狭いハンガーの映像が映し出された。ここは高度3000メートル上空、大型輸送機で作戦区域に移動中だった。ガコンという重音が響きハッチが開くと同時に機体を固定していたアームが外へと伸びる。
『目標地点に到達、機体投下後に離脱。レイヴンは作戦を遂行せよ』
「了解。パラシュートコンテナ、異常なし。FCSコンタクト良好。出力安定、機体制御、システム共に異常は認められず。・・・ゼクセン、ACスキールニル、これより作戦を開始する」
『アームロック解除、レイヴン、健闘を祈る』
 輸送機から降下されたスキールニル。コクピットの計器には高度が表示され、勢い良く数字が減っていく。
「高度2300・・・1600・・・1000、コンテナ解放、パラシュート展開」
 パラシュート展開と同時にブースターを噴かせ、落下速度を減速させる。降下の衝撃でも十分耐えきれる高度へ到達すると背部のコンテナをパージし、再び急降下を開始する。
「目標を確認、MT・・・四脚重装甲砲撃型13機、人型16、指揮官機と思われるACを1機確認。該当データ・・・照合、レイヴン、サイプレス・・・ACテン・コマンドメンツ。依頼内容確認、作戦目標・・・サイナス飛行場。敵勢力、アライアンス軍ミラージュ所属部隊、全機破壊および、友軍クレスト所属部隊の援護」

「・・・ファントム09からゴースト各機及び隊長へ、敵部隊の主力を撃破これより掃討せ・・・」
「どうした、ファントム09、応答せよ、09!09!」
「テン・コマンドメンツより全機へ、ACを確認した。相手はゼクセン、最高賞金の首だ」
 単独で戦場のど真ん中に現れたゼクセンは、流通管理局の件以来、行方を暗ませていたサイプレスと再会した。
「サイプレス・・・確かエヴァンジェとバーテックスに寝返った筈では?」
「違うね、俺は本部に移動しただけ。上があんな戦術部隊には用など無い、俺の実力を認めた本部の方が待遇がよくてな・・・」
ブゥゥン・・・
 ブレードがテン・コマンドメンツの胴体部分を一閃し、爆散した。
「隙がありすぎだ・・・話の続きはあの世でやれ・・・」

「・・・た・・・隊長機がやられた・・・。一瞬で・・・」
「指揮官機撃破、引き続き全敵勢力の排除を遂行する」

数十分後・・・
 全てのミラージュ部隊を撃破したゼクセンは周囲を見渡す。依頼主に作戦の報告をするため、クレスト本部に回線を繋げた。
「こちらゼクセン、ミラージュ部隊の壊滅を確認。任務終り・・・」
「どうした、レイヴン、応答せよ!」
 報告途中で新たな機影が確認された。
「ACフォックスアイ、ジャック・Oを確認した。指示を願う・・・」
「ジャック・・・だと、施設の奪還か?依頼の達成は確認した。ジャックへの対処は君に一任する。撃破したなら追加報酬を支払う」
 「了解した・・・」そう言うとゼクセンはジャックと回線を開く。
「アンバークラウン以来だな、こうして直接会うのは・・・」
「前置きはいい、用があるなら早くしてくれ」
「ナインボールのことは知っているな?」
「それがどうした、用がそれなら・・・」
「パルヴァライザーだけでなく、あのようなものまで現れた。残された時間がもう少ない、私が見出したその強さ・・・本物かどうか試させてもらう」
 するとジャックは両肩のバーチカルミサイルを全弾発射する。回避動作に移ろうとするもフォックスアイの突進をもろに喰らい、後方へと吹き飛ぶ。機体が激しく揺れ、ゼクセンの視界も同様に揺れる。すぐさま機体武装の確認を行った。
「マシンガン、ミサイル、ロケット、残弾数は全て30%以下か・・・。奴を倒すには弾がたりない・・・、となれば、ブレードで凌ぐしかないか・・・」
 大部隊を相手に戦ってきたゼクセンにとって、ジャックの襲来は想定外。覚悟を決め、武装システムを左のレーザーブレード以外は全てカットし、格闘戦で乗り切ろうとし、装置から光の刃が現れた。
「背水の陣・・・とでも言うべきか、その覚悟は見事だ。では私も同じ条件と行こう」
「カラサワを外してハンガーからグレネードを?何をする気だ?」
「互いに武装も心許ない、そこで、どちらかが一撃を当てればよい」
「ガンマンの早撃ちじゃないんだ、時代錯誤も・・・」
「このまま殺すに惜しい逸材だ。できればこれで決着をつけたいのだが」
 ジャックの申し出に断る理由も無かった。先ほどのミラージュ部隊との戦いで機体の耐久値も深刻であっただから、一撃を決めてそれで終われば事は済むと踏んだ。
「分かった、なら行くぞ!」

 ズン・・・。勝負は一瞬で決まった。
 ゼクセンはブレードごと左腕が吹き飛ぶが、ジャックの右腕も同様に切り落とされていた。
「相打ち・・・だと?」
「いや、君の方が若干速かった。この勝負、君の勝ちだ。その実力・・・本物だ」
 ジャックからの判定にゼクセンは驚いた。自分があのジャックに自分の力と覚悟を認められた。まぐれかどうかは別問題とても・・・。すると谷の上部ではジャックの迎えとして烏大老が、その勝負を終始見ていた。
「小僧・・・良い物を見させてもらったぞ。その力、この老いぼれに劣らぬと証明した」
「烏大老か・・・同じ老兵として一つ聞きたい、ファゴスのじいさんとあんたはどちらが上だ?」
「さあな・・・、面識はないが、あの魔術師も本物だ・・・。レイヴンとしての存在意義は異なるが、このわしでも恐らく苦戦は必至であろう」
「それだけ聞けば十分だ」
「いずれ会うのなら、言伝(ことづて)を頼みたい・・・」
「伝言か?なんだ?」
「この戦いが終えた後、お互い生きていたら、杯(さかずき)を酌み交わしたいとな」
「憶えていたら伝えておくよ(笑)」
 
 策謀めぐらす混沌と世界に終わりなど無い・・・

 あるのは明日の朝日を拝めることのできる強者のみ・・・

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